奥さんはと言えば相変わらず俺の携帯を奪い取り、メールのチェックと予測変換をつかって文章を組み立ててのあら探し。

俺もそこまでバカではないからね、毎日帰る前に予測変換を初期化することを覚えたよ。


「佐藤くんと会ったんでしょ?なんでそんなことするの。あなたとは関係のない人なのに信じられないことするね。」


「向こうから俺に会いたいと言ってきただけ。ゆり子さんの浮気相手は僕じゃないって言ってたよ。ほかにもいろいろ知ってるみたいだったね。」


「何を聞いたの。」


「何も聞いてないし、聞いていたとしてもおまえに話すわけない。


毎夜毎夜飽きもせずに夫婦間での揉め事。

それでも夫婦で一緒に暮らしているうちは俺と奥さんは毎日二人で晩ごはんを食べ、同じ布団で寝た。
俺の帰りがどんなに遅くとも、子供たちを先に食べさせ、俺を待っていてくれた。

夫婦で食卓を囲むも、無言。
口を開けば浮気だ離婚だ。
美味しいのかまずいのかなんてどうでもいいレベルだった。



そんな時だったのか。
徹夜をしてでも仕事を終わらせないといけない状況になっていた俺。
家には何の連絡もせず、ひたすら仕事をしていたの。


仕事を片付け、家に帰りついたのは午前3時すぎ。


さすがに奥さんも寝ているだろうと思ってた。

「おかえり。」

「起きてたの?」

「晩ごはん要るのか要らないのかわからなかったからあなたのぶんも作って待っていました。」


もう狂ってるよね。
意地になってるというのか。


「先食べて寝てたらいいのに。どうせ離婚の話ばかりになるの目に見えてるんだし、そういうのしんどい。」


「そっか。私と話すのが嫌でこの時間まで女のところに行ってたのか!」


「なんでそうなるの?仕事してた。」


「もう限界!」


被害妄想というのですかね。
それまでの俺の素行から想像して喋ってる。


「落ち着けゆり子。仕事で遅くなっただけ。」
そう言いながら奥さんの肩をトンと叩いた。

「そんな手で私を触るな!!」


俺の手を払いのけ、玄関から外へ飛び出そうとした。

「待てまて!こんな時間になにしてるの!


今度は手首を掴み、出ていこうとする奥さんを無理やりひきとめる。
男と女の力の差なんて歴然。どんなに逃げようとしても逃げられない。

「誰か助けて!殺される!!」


明け方に悲鳴をあげてそう叫ぶ奥さん。


近所にそんな人聞きの悪い言葉を聞かれたくない。そう思って手首を掴む力を緩めた瞬間、奥さんは裸足で家から飛び出ていった。



実家に逃げ帰ったんだと思った。
帰ってくるとも思わなかった。
こうなったら無理に連れ戻しても、元の夫婦に戻れる事はないと感じたから、追いかけることもしなかった。


夫婦って本当に脆いものだとその時ようやく感じたような気がするな。



それから離婚が成立するまでの半年間くらいだろうか。俺たち夫婦は別居という形になった。