何年か前の秋か冬だったのかな。


「川崎まで来ることできる?
俺、行きたい場所ある。」


「川崎よくわかんないけど行くよ。こないだ俺くんと横浜で会ったし、それよか近いんじゃない?」


「ありがとう。川崎でホテル予約するね。」


俺は関東在住ではないからして、川崎の街など予備知識はほぼゼロ。

んでも社会科が得意だった俺は、そこには大規模な工業地帯があることだけは知っていたの。

とりあえず駅前のシティホテルを予約した。




「いつか俺の地元においでよ。なんもないけど、見せたい景色あるし。」

叶わないと知りつつ、そういう未来の話をしてみたこともある。
既婚女性と俺。叶えようとすることに無理がある。




約束の当日、朝の9時頃に待ち合わせ、チェックインの時間まで居酒屋で過ごした。

「11時だったと思うのよ、チェックイン。」


「時間はちょうどいいよね。私、俺くんと会うときしかお酒飲まないの。」


「なんで?」


「そうするとコンビニでお酒見るだけで俺くんのこと思い出せるじゃん。」


嬉しいよね。
『パブロフの犬』的に俺を思い出して不埒な気分に浸ろうとしてくれて。


いつもそうだった。
まずは居酒屋。
その後、チェックイン。


ほろ酔いの彼女と一通りの行為を済ませた。

あれよね、清楚な雰囲気の女性が酒の勢いで挑むセックスってけっこうすごい。


いつもそうだった。
2名宿泊の予約をして、泊まらずにご主人が帰宅する前には家にたどり着くように帰す。


日没の時間がはやい季節を狙った、川崎。



「そろそろ行こっか。」

「うん…。」

急に寂しそうな顔をして、俺の腕にしがみつく。

それが演技なのか、本当の姿なのかはどうでもいい。とにかく『不倫してます』気分は最高潮だった。




「まだ少し時間あるよね?」





駅前からずっと一本道だったと思う。
土地勘のない俺がナビなしでたどり着けた。


「この展望台のぼろっか。夜景見たい。」


『川崎ナンチャラー』という工業地帯を見下ろすことができる場所。


「綺麗だねー!
俺くんとの場所がまたひとつ増えた。」


「いつか話してたよね、俺んちの方にもこんな景色あるの。工場の夜景がみえるとこ。一緒に見たいなって。


叶わないから叶えにきた。
俺の住むここと似た景色を二人で眺めること。


「でもすごいよね、ここ。
川崎の工業地帯だけじゃなくて都内の夜景もすごく綺麗に見えるし。俺んちあんなビルないわ。」


「あっち新宿だよね。」


「わかる?」


「わかんないけど、あんなに高層ビルあるの新宿でしょー。」





「…俺くんと夜景見ることできてよかった。」


それきり彼女は話さなくなった。
いよいよ本当に帰る時間が迫ってきた。


来た道を駅まで戻る。

「ここでいい。」

そう言われ、車を路肩に寄せた。
ドアを開ける彼女を引き留めてキスをした。


姿が見えなくなるまでそこにいた。
彼女は振り返ることなく、帰路についた。




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で、これは俺が住む地方の工業地帯。
次もそんな話をしよう。